亜急性甲状腺炎
Medical information亜急性甲状腺炎とは
一過性に甲状腺内に疼痛を伴う強い炎症が生じ、甲状腺組織が破壊され甲状腺ホルモンが血中に多量に漏出することで、甲状腺中毒症を呈する炎症性疾患です。この病態は1895年にMygindにより報告され、現在では代表的な甲状腺炎症性疾患として知られています。男女比は1:5~10と女性に多く、30~50歳代での発病が最も多いと報告されています。
症状
多くは上気道感染の症状(かぜの症状)の後に、頸部の自発痛(何もしなくても生じる痛み)や圧痛(強く触ると生じる痛み)を生じ、さらに顎や耳の後ろに痛みを感じる場合もあります。またこの甲状腺の疼痛部位は通常硬く腫れていますが、その後甲状腺の中を移動し、甲状腺の反対側が腫れてくる(クリーピング現象)こともしばしば認めます。
その他の症状としては、38~39度の発熱とともに、甲状腺中毒症の症状(倦怠感、食欲不振、動悸、下痢、息切れ、発汗過多、体重減少、手指の振戦、月経不順など)を認めることが多いとされています。
原因
上気道感染の後に生じることが多く、コクサッキーウイルスやアデノウイルス、エコーウイルス、インフルエンザウイルスなどウイルス感染の関与は以前より報告されていますが、原因となるウイルスはまだ特定されていません。最近では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による発症の報告や、ウイルスワクチン接種後に発症するケースも報告されています。またHLA-Bw35の検出率が高いことより、遺伝的要因が疾患感受性と関連する可能性も報告されています。
治療
血液検査、頸部超音波検査(エコー検査)を行います。血液検査ではCRPなどの炎症反応の上昇を認めますが、白血球数はあまり増加しないとされています。超音波検査では、甲状腺の疼痛部位に一致する境界不明瞭な低エコー域が観察されます。通常、血液検査と超音波検査で診断できるため、甲状腺の穿刺細胞診を行うことはほとんどありません。
疼痛部位に一致する境界不明瞭な低エコー域が消失している
炎症が右葉から左葉へ移動しており、クリーピング現象を認める
<亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン>
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a)臨床所見
有痛性甲状腺腫
b)検査所見
1. CRPまたは赤沈高値
2.遊離T4高値、TSH低値(0.1μU/ml以下)
3.甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域
1)亜急性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの
2)亜急性甲状腺炎の疑い
a)とb)の1および2
除外規定
橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌
【付記】
1 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
2 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
3 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
4 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。
5 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
6 急性期は放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。
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(日本甲状腺学会:甲状腺疾患診断ガイドライン2021より引用)
治療
通常数ヵ月程度で自然に改善しますが、急性期は発熱、疼痛、甲状腺中毒症状を伴うためステロイド薬や解熱鎮痛薬を中心とした薬物治療を行うことは少なくありません。動悸や頻脈などの甲状腺中毒症の症状が強い場合には、不整脈の薬も使用することがあります。もちろん過労や運動を避け、安静にすることも大切です。
甲状腺ホルモンについては、まず甲状腺中毒症(甲状腺ホルモン上昇)の時期があり、その後回復期には甲状腺ホルモンが一過性に低下した後、治癒(甲状腺ホルモン正常)に至ることが多いとされています。
ただまれに甲状腺ホルモンが永続的に低下する場合があり(数%)、その際には甲状腺ホルモン補充療法が必要になります。またまれに再発することも報告されています(約3%)。そのため、しばらくの間は血液検査や超音波検査を定期的に行う必要があります。
参考文献
1) Guimaraes VC : Endocrinology. 6th ed. WB Sunders, Philadelphia : 1595-1606, 2010.
2)日本甲状腺学会 : 亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン. 甲状腺疾患診断ガイドライン 2021(2022年6月2日改定). 2022.
https://www.japanthyroid.jp/doctor/
guideline/japanese.html
3)Kubota S, Nishihara E, Kudo T, et a l : Initial treatment with 15 mg of prednisolone daily is sufficient for most patients with subacute thyroiditis in Japan. Thyroid 23 : 269-272, 2013.
4)Ross DS, HB Burch, DS Cooper, et al : 2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis. Thyroid 26 : 1343-1421, 2016.
5) M Iitaka, N Momotani, J Ishii, et al : Incidence of subacute thyroiditis recurrences after a prolonged latency : 24-year survey. J Clin Endocrinol Metab 81 : 466-469, 1996.
6)中村重徳 : 亜急性甲状腺炎100例の臨床的検討. 岐阜赤十字病医誌 33 : 3-12, 2022.
7) M Kishimoto, T Ishikawa, M Odawara : Subacute thyroiditis with liver dysfunction following coronavirus disease 2019 (COVID-19) vaccination: report of two cases and a literature review. Endocr J 69 : 947-957, 2022.
先生より
院長 細野研二
プロフィール
・発熱と咽頭痛で病院を受診した際、感冒や咽頭炎と診断され治療を受けても改善しない場合には、甲状腺の炎症である可能性があります。咽頭痛ではなく、首の痛みを伴う場合には、亜急性甲状腺炎を疑うことも大切です。
・最近では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染やコロナワクチン接種後に発症したケースも報告されており、発熱以外に首の痛みを認める場合には、亜急性甲状腺炎を合併している可能性も考えられます。
・当院では甲状腺の血液検査、超音波検査を行っております。症状を認める場合には、お気軽にご相談ください。