嗅覚障害
Medical information嗅覚障害とは
ニオイの量的な異常、質的な異常が生じている状態
症状
嗅力障害(嗅覚低下、嗅覚脱失):ニオイが分かりにくい、ニオイが全く分からない
嗅感覚障害(異常嗅覚:嗅覚過敏、異臭症など):ニオイに敏感になっている、本来のニオイと異なったニオイを感じる など
原因
障害の部位により大きく3つに分けられ、それぞれ図に示すような原因が考えられます。
・中枢性嗅覚障害
・末梢神経性嗅覚障害
・呼吸性嗅覚障害
治療
問診、嗅覚検査、鼻腔内視鏡検査、画像検査、アレルギー検査などを行い診断します。
検査
・静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)
静脈からアリナミン注射液を注入し、ニオイがするまでの時間と消えるまでの時間を測定します。呼気時のニオイ刺激に対する反応を調べるものです。
・基準嗅覚検査(T&Tオルファクトメーター)
5種の基準臭を実際に嗅いで障害の程度を判定します。検査により室内にニオイが充満するため脱臭装置が必要で、当院では施行できず、検査可能な施設は限られています。吸気時のニオイ刺激に対する反応を調べるものです。
治療
●原因となる疾患(副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎など)が特定できた場合、まず原因疾患の治療を行います。特に好酸球性副鼻腔炎では嗅覚障害が生じやすく、疑わしい場合には検査を進めていきます。
●薬物治療
様々な要因が混在するような場合には、懸垂頭位でのステロイド剤の点鼻を数ヶ月間継続します。
その他ビタミン剤や当帰芍薬散など漢方薬、亜鉛製剤(亜鉛低下を認める場合)の内服も行います。
好酸球性副鼻腔炎の場合、嗅覚の維持にはステロイド薬の内服や点鼻が必要になることが少なくありません。炎症が高度な場合には最初から手術(ESS:内視鏡下鼻副鼻腔手術)が勧められますが、術後に嗅覚障害が再発するケースも多く、その際には2020年から保険適応となっている抗IL-4受容体抗体である生物学的製剤のデュピルマブ(薬剤名:デュピクセント)の高い効果が期待できます。
●嗅覚刺激療法(嗅覚リハビリ)
2009年にドイツドレスデン大学耳鼻咽喉科のHummelらが行った研究にて、神経性嗅覚障害に対する嗅覚リハビリテーションの有用性が示された後、様々な研究結果が報告されるようになり、現在では神経性嗅覚障害に対する治療として嗅覚リハビリテーション(嗅覚トレーニング)は国際的に推奨されています。
これは積極的にニオイを嗅ぐことで、嗅神経細胞・嗅神経を刺激し、脳にニオイの情報を伝達するリハビリ(トレーニング)を行うものです。嗅神経細胞は障害を受けても再生することが知られており、この嗅覚トレーニングにより、嗅神経細胞の再生が活性化されると言われています。
過去の研究から、リハビリの効果を高める要素として、時間(長い方がよい)、ニオイの濃度(高濃度の方がよい)、ニオイの種類(多種類の方がよい)が大切であると報告されています。嗅覚に障害をきたした場合、回復には一定の期間を要する(新型コロナウイルス感染や感冒等による嗅神経の障害の場合では通常半年~1年以上)ことが多く、ご自宅でのリハビリが重要となってきます。
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参考文献
1.Hummel T, Kobal G, Gudziol H, et al : Normative data for the "Sniffin' Sticks" including tests of odor identification, odor discrimination, and olfactory thresholds: an upgrade based on a group of more than 3,000 subjects. Eur Arch Otorhinolaryngol 264 : 237-243. 2007.
先生より
院長 細野研二
プロフィール
・嗅覚は障害があっても周囲には分かりにくく、放置されている場合もありますが、異臭や悪臭を認知できないことで空気汚染や食事の腐敗、ガス漏れなどに気づくことが難しくなり、健康にかかわってくることもあります。また、香り(風味)を楽しむことができず食事が美味しくなくなり生活の質も低下することが考えられます。
・当院では検査として内視鏡検査や静脈性嗅覚検査を行っております。
・嗅覚障害を認めた場合、放置することで改善しにくくなることがあり、できるだけ早い目に耳鼻咽喉科を受診していただくことをお勧めします。
・インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染後に嗅覚障害が残る場合があり、このような場合にも治療が有効である可能性がありますので、一度ご相談ください。