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2025/03/17

慢性疲労を治す本

堀田修先生の著書『いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体 慢性疲労を治す本』をご存じでしょうか。

慢性疲労症候群とは、日常生活が著しく損なわれるほどの強い全身倦怠感、慢性的な疲労感が休養しても回復せず、6ヵ月以上の長期にわたって続くものとされており、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)とも呼ばれます。

慢性疲労症候群(CFS)の病因としては、これまでウイルス感染症説、内分泌異常説、免疫異常説、代謝異常説、自律神経失調説などが考えられてきました。現在、「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班からは、「CFSの多くは環境要因(身体的・精神的ストレス)と遺伝的要因が関係した神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、ウイルスの再活性化や慢性感染症によって惹起された種々のサイトカイン異常による脳機能障害である可能性が高い」と報告されています。

 

 

図1 ME/CFSにおける多系統の調節異常(文献1より引用)

 

表1 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS) 臨床診断基準(厚生労働省研究班2017年)

 

6ヵ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)
1. 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下*
2. 活動後の強い疲労・倦怠感**
3. 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
4. 以下(ア)(イ)のいずれかを認める
(ア)認知機能の障害
(イ)起立性調節障害
別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する
(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)
*病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること。
**活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。

 

別表1-1. ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査

 

(1) 尿検査(試験紙法)
(2) 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
(3) 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
(4) CRP、赤沈
(5) 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、 血清電解質、血糖)
(6) 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
(7) 心電図
(8) 胸部単純X線撮影

 

別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態

 

(1) 臓器不全(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
(2) 慢性感染症(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
(3) 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
(4) 神経系疾患(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)
(5) 系統的治療を必要とする疾患(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
(6) 内分泌・代謝疾患(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)
(7) 原発性睡眠障害(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)
(8) 精神疾患(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)

 

別表1-3. 共存を認める疾患・病態

 

(1) 機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態、線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など
(2) 身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)
(3)その他の疾患・病態
起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校
(4)合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)

 

別表2. PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)

 

0
倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる
1 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある
2 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、 全身倦怠感の為、しばしば休息が必要である。
3 全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である *1
4 全身倦怠感の為、週に数日は社会生活や労働ができず、 自宅にて休息が必要である。 *2
5 通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、 週のうち数日は自宅にて休息が必要である。 *3
6 調子のよい日は軽労働は可能であるが、 週のうち50%以上は自宅にて休息している。
7 身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、 通常の社会生活や軽労働は不可能である。 *4
8 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、 日中の50%以上は就床している。 *5
9 身の回りのことはできず、常に介助がいり、 終日就床を必要としている。
疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)
*1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。
*2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。
*3 フルタイムの勤務は全くできない状態。
ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。
*4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
*5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。

※日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班

慢性疲労症候群は、微熱、頭痛、のどの痛み、疲労感、筋肉痛、関節痛、脱力感、思考力の障害、睡眠障害、気分障害なども合併することが多く、原因が不明で明確な治療法も確立されていません。現在日本では多くの方が「慢性疲労症候群」で悩まれていると言われています。

また「コロナ後遺症」(long COVID)でも倦怠感、疲労感、めまい、ブレインフォグ(頭の中に霧がかかった感じで集中力や記憶力の低下を認める)、頭痛等を認めることが多く、「慢性疲労症候群」の症状と共通しています。実際に当院でも上咽頭擦過療法(EATまたはBスポット療法)を続けるために、多くの患者様に通院していただいております。

慢性疲労症候群という診断はついていなくても、慢性的な疲労感や倦怠感に悩まされたり、家事や仕事の後に強い疲労感が出て日常生活に支障をきたしたりされる方は少なくありません。

なんとなくだるい、すぐに疲れてしまう。そんな不調がずっと続いていたら、「季節の変わり目だから」「気のせいかも」と決めつけて放置せず、「慢性疲労」の可能性も疑ってみてください。

 

堀田修先生はこれまで1000人を超える慢性疲労の方を診察・治療してこられ、今回その原因や治療法、セルフケアについて解説されています。
疲労感の原因が「脳の炎症、迷走神経の炎症」であることが、これまでの研究でかなりの程度、明らかになっており、迷走神経と呼ばれる神経の炎症を改善することが「コロナ後遺症」の治療にもつながると述べられています。また上咽頭擦過療法以外に、首湯たんぽ、鼻うがい、かっさ、口腔の体操などが紹介されています。

慢性疲労で悩まれている方は、是非ご一読ください。

 

参考リンク先

●「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班 ホームページ

  慢性疲労症候群に陥るメカニズム

ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群) 療養生活の手引き by CFS支援ネットワーク

日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班 ホームページ

参考文献

  1. International Association for Chronic Fatigue Syndrome/Myalgic Encephalomyelitis :筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS) 臨床医のための手引書(日本語翻訳:国立研究開発法人日本医療研究開発機構).2014.
  2. Lucinda Bateman, et al : Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management. Mayo Clin Proc 96 : 2861-2878, 2021.
  3. 倉恒弘彦 : 慢性疲労症候群に陥るメカニズム. 現代化学 444 : 18-22, 2008.
  4. 倉恒弘彦 : 慢性疲労症候群の疫学、病態、診断基準. 日本臨床 65 : 983-990, 2007.
  5. 倉恒弘彦 : 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)―最近の知見―. 神経治療 38 : 164-169, 2021.

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