コラム
Column亜鉛欠乏症の方に新しい薬『ジンタス』が使用できるようになりました
亜鉛欠乏症の方に新しい薬『ジンタス』が使用できるようになりました
亜鉛欠乏症とは?
亜鉛欠乏症とは、身体の様々な機能を維持していくために働いているミネラルで、われわれに必要不可欠な栄養素である亜鉛が不足している状態です。亜鉛が欠乏すると亜鉛酵素の活性が低下し、味覚障害、貧血、皮膚炎、免疫機能低下、生殖機能の低下、発育不全、脱毛、症食欲低下、口内炎、認知機能障害などの様々な障害や症状をきたします。特にタンパク質合成が盛んな部位や亜鉛が高濃度に存在する部位で障害が生じやすいと考えられます。
診断は、血液検査にて低亜鉛血症(血清亜鉛値が低下した状態)を認め、さらに亜鉛欠乏による症状または血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値も認めると確定的になります。
治療は通常薬物療法であり、不足している亜鉛を亜鉛製剤で補充していきます。
この際、以前より亜鉛製剤として『ポラプレジンク』が使用されてきました。この薬剤は本来胃薬ですが亜鉛を含んでいるため、また亜鉛欠乏には適応を認められていませんが他に代わる薬剤がなかったため、日常診療においては広く使用されてきたと考えられます。
ただし『ポラプレジンク』は 1 日量である 150mg 中に、亜鉛が 34mg しか含有されておらず、高度の欠乏症の方や症状の強い方では十分な量を内服していただくことが困難でした。
そんな中2017年に酢酸亜鉛製剤である『ノベルジン』の適応が拡大され低亜鉛血症にも処方が可能となり、現在ではより高容量の亜鉛が保険診療でも投与可能となっています。
ただこの『ノベルジン』という薬は、副作用として、嘔気(むかつき)や嘔吐、腹痛などの消化器症状を認めることがあり、内服を中断せざるを得ない方が時々おられます。
また用量を増やすとなると1日に2回や3回と服用する必要があります。
亜鉛製剤の問題点を解決
この従来からの問題点を解決するのが、本年8月に発売された『ジンタス』(ヒスチジン亜鉛)という薬です。
このヒスチジン亜鉛水和物(ジンタス)は、酢酸亜鉛水和物(ノベルジン)と比較して亜鉛イオンによる消化管系への直接的な副作用が少なく、国内での臨床試験でも嘔気や嘔吐などの消化器症状が少なくなっていると報告されています。
さらに、酢酸亜鉛水和物製剤の投与回数は1日2~3回である一方、同薬は1日1回投与という特徴があります。
ただ『ノベルジン』と同様、副作用として銅欠乏、鉄欠乏には注意する必要があります。
銅および鉄欠乏の原因は、亜鉛投与による腸管での銅、鉄の吸収が抑制されるためであり、治療中は血清亜鉛値以外に、血清銅値、血清鉄値も数か月ごとに測定することが勧められています。
治療は最低でも数か月間は内服を続け、以後は血液検査の結果や症状を参考にしながら服用量を調整していきます。
治療にはどれくらい費用がかかりますか?
よくご質問いただくため、以下にまとめてみました。
ポラプレジンク、酢酸亜鉛ともに先発薬品と後発薬品があり、また酢酸亜鉛とヒスチジン亜鉛では1錠に含まれる亜鉛の量によって薬価が異なります。
成分名 | 先発/後発 | 薬剤名 | 亜鉛含有量 (/日or/錠) |
薬価(/日or/錠) |
ポラプレジンク | 先発 | プロマックD錠75 | 34mg(/日) | 35円(/日) |
後発 | ポラプレジンク OD 錠 75mg | 34mg(/日) | 28.6円(/日) | |
酢酸亜鉛 | 先発 | ノベルジン錠 | 25mg(/錠) | 201.1円(/錠) |
ノベルジン錠 | 50mg(/錠) | 321.6円(/錠) | ||
後発 | 酢酸亜鉛 | 25mg(/錠) | 94.9円(/錠) | |
酢酸亜鉛 | 50mg(/錠) | 148.3円(/錠) | ||
ヒスチジン亜鉛 | 先発 | ジンタス錠 | 25mg(/錠) | 未発売 |
ジンタス錠 | 50mg(/錠) | 232.9円(/錠) |
この表が示しますように、ポラプレジンク(後発)とノベルジン(先発)の薬価にはかなり差があります。そのため高容量の亜鉛が必要な場合でも、患者様の負担が大きくなるためご相談の上でポラプレジンクから開始することも少なくありませんでした。
2023年に酢酸亜鉛の後発薬品が発売されてからは、薬価が下がったことで量の調節がしやすくなっています。さらに、今回発売された『ジンタス錠』は従来の『ノベルジン』よりも薬価が低くなっており、先に述べたメリットを考慮すると、選択肢として十分検討できる薬剤であると考えます。
※現在、新薬については、発売から1年間は原則1回14日分を限度として投与することとされていますので、『ジンタス錠』についても、しばらくは1回の診察につき14日分までしか処方できません。この点をご注意ください。
亜鉛欠乏症は日本では15~25%の方に認めると報告されており、決してめずらしいものではありません。また亜鉛欠乏症では症状が非常に多彩であるため気付かれていないケースも多くあります。
当院では亜鉛の検査や、亜鉛欠乏に対する補充療法を行っております。亜鉛欠乏症の症状は非常に多彩であるため気付かれていないケースも多く、気になる場合にはお気軽に当院までご相談ください。