コラム
Columnインフルエンザとワクチン Q&A 2024年度
インフルエンザについて
季節性インフルエンザは流行性があり、日本では例年12月~3月頃に感染が多くなります。流行期には手洗い・うがい、手指消毒、乾燥予防、換気、人混みへの外出を控えるなどの対策を行うとともに、インフルエンザについて知っておいてもらうことも大切です。
質問①:インフルエンザとは?
回答:インフルエンザウイルスに感染することによって生じる病気です。発熱(38度以上)、頭痛、関節痛、全身倦怠感などの症状が急に現れ、通常のかぜの症状(のどの痛み、咳、鼻みずなど)以外に、全身症状が強いことが特徴とされています。ただし、微熱のみ(37度台)のケース、咽頭痛と咳のみのケースもあり、通常のかぜと区別がつきにくいこともあります。
質問②:発熱などの症状を認めた場合どうすればよいでしょうか?
回答:自宅で解熱薬などを用いながら安静にして過ごすという方も多いと思いますが、症状が強い場合には医療機関を受診し、検査により診断してもらいましょう。子供さんや高齢の方では脳症や肺炎などを合併し重症化することもあります。インフルエンザに対しては薬(抗インフルエンザウイルス薬)がありますので、病状に応じて処方されます。薬の服用により発熱期間が短縮され、ウイルスの排出量も減少します。ただし、症状出現後2日(48時間)以降に開始された場合には十分な効果が期待できないとされていますので、早めに診断してもらうことが大切です。
質問③:インフルエンザにかかった場合どうすればよいでしょうか?
回答:インフルエンザを発症する前日から発症後3~7日間は鼻やのどからウイルスを排出する(解熱後もウイルスを排出する)といわれているため、鼻水、咳、くしゃみなどの症状が続いている場合には、外出を控えるなど周囲への配慮が望ましいとされています。学生の場合、出席停止期間は、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」(学校保健安全法)とされています。
質問④:インフルエンザの治療薬はどのようなタイミングで開始するのがよいでしょうか?
回答:抗インフルエンザウイルス薬は、発病(発熱や咽頭痛などの症状を認めた時)から48時間以内に開始することが勧められています。その場合、発熱で苦しむ期間が1~2日間短くなり、同時に鼻やのどからのウイルス排出量も減少するため家族・周囲への感染拡大のリスクも減少します。なお、症状出現から48時間以降に服用を開始した場合には十分な効果は期待できません1)。なお、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザにかかった際は異常行動の出現に対して注意する必要があります(発熱から2日間以内)。
インフルエンザワクチンについて
質問①:インフルエンザワクチンは接種した方がよいでしょうか?
回答:インフルエンザワクチンにはインフルエンザの発症、重症化、死亡の予防に一定の効果があるとされています1)。ワクチンの有効性に関しては多くの研究が行われていますが、調査する対象(年齢)や地域、時期などによって結果は異なります。また流行株とワクチン株の抗原性の一致度によっても異なります(日本では国内の流行状況や流行株の解析情報などより、次のシーズンに流行しそうなウイルス株の候補を挙げ、安定した供給ができるかなど総合的に観点より毎年株が選定されています)。その中で、「65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病予防、死亡については82%の効果があった」とする報告2)や、「乳幼児では、20~60%の発病予防効果」とする報告3,4)があります。
質問②:インフルエンザワクチンは毎年接種した方がよいでしょうか?
回答:インフルエンザワクチンの持続効果は約5ヵ月間であること、またワクチン株は流行状況から毎年変更されることより、毎年接種することが勧められます。
質問③:インフルエンザワクチンは1回接種でよいでしょうか?
回答:13歳以上の方は、1回接種が原則となっています。ワクチンの添付文書には「13歳以上のものは1回または2回注射」と記載されていますが、健康な成人の方や基礎疾患(慢性疾患)のある方を対象に行われた研究で、インフルエンザワクチン0.5mLの1回接種と2回接種とでは、同等の抗体価上昇を認めたと報告されており、1回接種で十分な効果が得られると考えられているからです。ただ基礎疾患(慢性疾患)があり著しく免疫が抑制されている状態と考えられる場合など、2回接種が必要と判断されることもあります。反対に、国内では13歳未満の方は、2回接種が勧められています。これは1回接種と2回接種を比較すると、2回接種の方がより高い抗体価を認めるからです。ただ、世界保健機関(WHO)や米国予防接種諮問委員会(ACIP)では、「生後6か月~8歳まで(9歳未満)で初めて接種を受ける場合は2回接種、翌年からは毎年1回」、「9歳以上は初年度から1回接種」としています。そのため当院では9歳~12歳の方の場合、過去のワクチン接種歴や罹患歴などを考慮し、接種回数はご家族と相談して決めさせていただいています。
質問④:2回接種の場合、接種の間隔はどれくらいでしょうか。?
回答: 13歳未満の方は、2回接種です。ただ、世界保健機関(WHO)や米国予防接種諮問委員会(ACIP)では、9歳以上は「1回接種」としています。また、2回の場合の接種間隔は、2~4週間とされています。また13歳以上であっても受験を控えた受験生やご家族等で2回接種を希望される場合には、4週間以上あけることが勧められています。
質問⑤:接種時期はいつ頃がよいでしょうか?
回答:インフルエンザの流行期が通常12月末から翌年3月頃であるため、遅くとも12月中旬までに接種を完了することが大切とされています5)。
質問⑥:ワクチンの効果はどれくらい続くでしょうか?
回答:予防効果は接種後2週間くらいから現れ、通常4~5ヵ月間続くと考えられています。
質問⑦:ワクチン接種の費用は?
回答:インフルエンザワクチンの接種は任意接種(本人または保護者の希望で受けるもの)となりますので、通常、接種費用は全額自己負担となり、その費用は接種を受ける医療機関によって異なります。ただし大阪市の場合、「65歳以上の方」または「60歳から64歳で一定の障がいを有する方※」は定期接種として一部の自己負担で受けていただけます。(※対象については大阪市のホームページでご確認ください。)
当院の場合:
一般 3,500円
大阪市在住の65歳以上の方 1,500円
小児(12歳以下)の方 1回目3,500円、2回目3,000円
質問⑧:インフルエンザに一度罹患した場合、ワクチンは接種しなくても大丈夫でしょうか?
回答:前回罹患したインフルエンザウイルスとは異なる型のウイルスが流行することがあり、(ワクチン未接種で)インフルエンザに罹患した場合でも、同シーズン中に再度インフルエンザに罹患する可能性があります6)。そのため、ワクチン接種を行うことには予防効果があると考えられます。
質問⑨:ワクチンには注射以外の方法もあるでしょうか?
回答:令和6年9月末に点鼻タイプのワクチン「フルミスト」が発売になります。現在国内で主に使用されているワクチンは、インフルエンザウイルスA型株(2種類)とB型株(2種類)のそれぞれを培養して製造される「4価ワクチン」と呼ばれる注射タイプのものです。これは「不活化ワクチン」と言われ、病原体となるウイルスや細菌の毒性を排除し感染力を無くしたものです。安全性が高いかわりに、免疫をつけるには複数回の接種が必要になりやすいというデメリットがあります。それに対し新しい点鼻タイプのワクチンは、ウイルスや細菌の毒性や感染力を弱めた「生ワクチン」と言われるもので、生きた病原体を取り込むため実際にその病気に感染した時と同じような免疫システムが働き、強い免疫がつくと考えられています。このワクチンは従来のワクチンよりも予防効果が高いと言われており、接種回数も年齢にかかわらず毎年1回でよいとされています。ただし接種後1週間以内に感冒症状(鼻水、咽頭痛、咳など)を認めることがあります(30~40%)。また対象が2歳~18歳までと年齢も制限されています。新しいワクチンについては、供給予定量と需要量との関係が現時点でまだ不明瞭であるため、当院での接種を希望される場合にはお気軽にお問い合わせください。
参考文献
- 厚生労働省:令和5年度インフルエンザQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2023.html - 神谷齊ら:インフルエンザワクチンの効果に関する研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/3401 - 廣田良夫ら:ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26124 - 加地正郎ら:乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/6902 - 岡部信彦、多屋馨子ら:予防接種に関するQ&A集 2022. Q1 p260, 一般社団法人日本ワクチン産業協会, 2022.
http://www.wakutin.or.jp/medical/pdf/qa_2022.pdf#page=1 - 国立感染症研究所:インフルエンザウイルス分離・検出速報. 病原微生物検出情報.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html