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ヘッドホン・イヤホン難聴とは?

近年、スマホやポータブルオーディオプレイヤー、ゲーム等の普及により、大音量の長時間暴露による難聴「ヘッドホン・イヤホン難聴」(音響性聴器障害)が問題となってきています。大きな音量で音楽などを聞き続けることにより、音を伝える内耳の「有毛細胞」が徐々に破壊されて生じる難聴です
この有毛細胞が破壊されると、元に戻ることはなく、永久的な難聴につながります。特に屋外での使用時、電車の中など周囲が騒がしくなると音量を上げる傾向があり、10代から続けていると30~40代で難聴が生じる可能性が指摘されています。

 

若者の難聴が増えています

前述の通り、音楽デバイス(携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンなど)の普及による若年層の聴力低下が最近問題視されています2000年から2020年までに行われた約7万件の聴力検査結果を、年代別と男女別に解析した最近の国内の和佐野らの研究では、対象となった20 年の間に40代以下の若年層において高音部(4000Hz)の聴力が徐々に低下していることが示されました。
またこの論文では、「4000Hzは持続的な騒音曝露により最も影響を受けやすい周波数であり、ポータブル音楽デバイスなどによる日常的な騒音曝露の影響によるものと考えられ、イヤホンやヘッドホンなどにおける過大音に対する対策の必要性を示唆する結果である」と考察されています。
世界的にも同様で、「11億人もの若者(12~35 歳の約50%に相当)がヘッドホンで大きな音を聞き続けることによって生じる音響性難聴(ヘッドホン・イヤホン難聴)のリスクにさらされている」と世界保健機構(World Health Organization ; WHO)は警告しています。
またWHOと国際電気通信連合(International Telecommunication Union ; ITU)は2019年に連名で、スマートフォンやオーディオプレーヤーに音量制限機能などの搭載を求め、これらの機器の製造者と使用により安全に聴くことができるよう、新しい国際標準勧告を発表しました。

では、実際に若者がどの程度イヤホンを使用し、音響性難聴の存在や予防することの大切さをどのくらい理解しているのかというと、看護学生79名を対象に行った市川らの調査では、89.6%の学生が日常的にイヤホンを使用しており、その中でも聴覚を保護するために気を付けていることが「ない」学生が84.8%、音響性難聴について「知らない」学生が58.5%、音響性難聴の予防方法を「知らない」学生が84.8%であったと報告されています。つまり、若者での認知度はかなり低いということです。
しかしながら知らない間にヘッドホン・イヤホン難聴はゆっくりと進行し、難聴を自覚する頃には聴力の回復は難しくなっていることがほとんどです。つまり、大きな音を聴き続けることで難聴が生じるリスクや対策を理解し、しっかりと耳の健康を守っていくことが大変重要になります。耳鳴や耳閉感を最近感じておられる方で、毎日長時間ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いたり動画を視聴されたりする場合には、将来の難聴進行を予防するため特に注意が必要です。

具体的な対策はというと、WHOではヘッドホンやイヤホンで音楽を聴く際の対策として、次の3つを具体的にあげています。

 

①音量を下げたり、連続して聴かずに休憩をはさむこと
②使用を1日1時間未満に制限すること
③ノイズキャンセリング(周囲の騒音を低減する)機能の付いたヘッドホン・イヤホンを選ぶこと

 

またスマホ等でヘッドホンやイヤホンを使用される際、静かな場所で周りの会話が聞こえる程度の音量、または最大音量の60%以下の音量であれば安全なレベルとされています。
音量に配慮してヘッドホンやイヤホンを使用していきましょう。

若者だけでなく、高齢者の難聴も増えています

一般的にわれわれ人間は40歳頃より聴力の衰えが出始めると言われており、まず周波数の高い音域から聞こえにくくなり、徐々に聞こえにくい音域が広がっていきます。ただ高音域の音は通常会話にはほとんど影響を与えないため、最初は難聴の自覚がないことがほとんどです。多くの場合、大部分の音域で聴力が低下する70~80代になって初めて聞こえにくさを感じるようになります。

超高齢化社会をむかえた日本では、加齢による聴力低下(加齢性難聴、または老人性難聴といいます)を中心として、65歳以上の難聴者は1600万人と推計されており、これは65歳以上の人口の約45%にも相当します。難聴や耳鳴りを自覚される方の数は急激に増加しており、コミュニケーション障害に直結する難聴は、認知症やうつ症状を生じさせたり悪化させたりするため、その対応は喫緊の課題となっています。
これは世界的にも同様で、WHOの報告書World Report on Hearingによると、2019年時点で約15.8億人である難聴者数が、2050年までには約25億人に達すると推定されており、WHOでも大変重要視されています。
もちろん聴力の程度には加齢性変化以外に、遺伝的な要因に加え、動脈硬化による血流の障害なども関係しますが、若い頃から騒音性難聴のリスクや対策を理解し、耳の健康を意識していくことも大切です。

 

耳の不調や違和感など、気になる方は気軽に当院までご相談ください。
まず現在の聴力を検査することからはじめましょう。

→音響性聴器障害(騒音性難聴、音響外傷)についての詳細はこちら
音響性聴器障害(騒音性難聴、音響外傷など)

 

参考文献


1) World Health Organization : 1.1 billion people at risk of hearing loss. 2015.
(https://www.who.int/vietnam/news/detail/10-03-2015-1.1-billion-people-at-risk-of-hearing-loss)
2) World Health Organization : New WHO-ITU standard aims to prevent hearing loss among 1.1 billion young
people.(https://www.who.int/news-room/detail/12-02-2019-new-who-itu-standard-aims-to-prevent-hearing-loss-among-1.1-billion-young-people
3) 吉野智美, Shelly Chadha : Make Listening Safe-Safe listeningに向けたWHOの取組み-. ITUジャーナル 47 :
26-29, 2017.(https://www.ituaj.jp/wp-content/uploads/2017/02/2017_2-06-SpotSafeListening.pdf
4) 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 ヘッドホン・イヤホン難聴の予防促進サイト
https://www.earphones-nancho.org/
5) Koichiro Wasano, Kimitaka Kaga, Kaoru Ogawa : Patterns of hearing changes in women and men from
denarians to nonagenarians. The Lancet Regional Health – Western Pacific : 2021. (DOI :
10.1016/j.lanwpc.2021.100131)
6) 市川佳甫美, 宇田優子 : N大学看護学科4年生のイヤフォン等使用状況と音響性難聴に関する知識の現状. 新
潟医療福祉会誌 19 : 95-95, 2019.
7) 仲野敦子 : 子どもとメディア ~聴力への影響~. 日小児科医会報 53 : 39-42, 2017.
8) 松延 毅 : ヘッドホン難聴の現状. 日医雑誌 151 : 380, 2022.

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