コラム
Column2021/12/14
抗体製剤ゾレア【重症のスギ花粉症の患者様向け】
重症のスギ花粉症の患者様へ 抗体製剤ゾレアの適応があります
ゾレア(一般名:オマリズマブ)という薬は、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)のアレルギー症状を引き起こすIgE抗体に作用する、全く新しい作用機序を持つ抗体製剤です。
2009年から気管支喘息の治療薬として、2017年からは慢性蕁麻疹の治療薬としても国内で使用されてきた薬剤ですが、飲み薬や点鼻薬を続けても効果が乏しい重症のスギ花粉症の患者様に、2020年より保険にて使用できることになりました。
1.IgE抗体がアレルギー症状を引き起こすメカニズム
- 花粉(抗原)が体内に侵入すると、花粉(抗原)と結合する性質をもつ抗体(IgE抗体)が「Bリンパ球」という免疫細胞でつくられます。
- 抗原(花粉)と抗体(IgE抗体)が、炎症にかかわる細胞の一つであるマスト細胞の表面で結合します。
- マスト細胞から、炎症を起こす化学物質(ヒスタミン、ロイコトリエン、サイトカインなど)が産生・放出されます(これをアレルギー反応といいます)。
- 放出された化学物質の働きにより、鼻や目に炎症が起き、花粉症の症状が生じます。
2.ゾレアの作用
一般的な内服薬の場合、抗ヒスタミン薬であればマスト細胞から放出されたヒスタミンという化学物質の、抗ロイコトリエン薬であればマスト細胞から放出されたロイコトリエンという化学物質の働きのみを主に抑えることになります。
そのため抗ヒスタミン薬のみで症状が改善しない場合など、他の効果を期待して抗ロイコトリエン薬やその他の薬剤を同時に使用することも多く、また効果も増強します。
これに対しゾレアの場合、花粉によって産生された抗体(IgE抗体)と直接結合し、抗体(IgE抗体)がマスト細胞と結合できなくする(結合をブロックする)ため、アレルギー反応をその元から抑えることになります。つまり、従来の薬と異なり、炎症を起こす化学物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が産生・放出される前に作用を発揮します。
3.対象
以下のすべてを満たす患者様が対象になります。
- スギ花粉のアレルギー検査(血液検査)の結果が陽性であること
(スギ花粉抗原に対する特異的IgE抗体≧クラス3) - 「鼻アレルギー診療ガイドライン」の基準にて、スギ花粉症の重症または最重症と診断されること
- 過去に鼻噴霧用ステロイド薬及び内服薬による治療を受けたことがあり、効果が乏しかったこと
- 今回のスギ花粉症の時期も、従来の治療で効果が不十分と判断されること
- 血液検査で、血液中の総IgE値が30~1,500 IU/mlの範囲にあること
- 12歳以上で、体重が20~150kgの範囲にあること(12未満の小児には適応がありません)
4.投与方法
スギ花粉が飛散する2月~4月の期間、2週または4週毎に皮下に注射します。皮下注射というのは、インフルエンザ等のワクチンを注射するのと同じ方法です。(1回あたりの投与量や投与の間隔は、血液検査結果および体重に基づいて設定されます。)
5.期待できる効果
初回投与後、数日~2週間で効果を認めます。
- くしゃみ、鼻汁、鼻づまりの改善
- 目や身体のかゆみの改善
- 喘息をお持ちの場合には喘息症状の改善
6.良い点
- アレルギー反応をより上流で抑えるため、既存の薬剤よりも高い効果が期待できます。
- 眠気の副作用がありませんので、受験生の方や仕事で車を運転される方などでも安心して受けていただくことができます。
7.注意を要する点
- 注射薬ですので、注射部位に赤みや腫れを認めることがあります
- 非常にまれですが、全身のかゆみ、蕁麻疹、血圧低下、気管支のけいれんや呼吸困難などのアナフィラキシー症状が出現することがあります。
そのため副作用やアレルギーの出現の有無を確認するため、初回注射後のみ15~30分ほど院内でお待ちいただきます。
※ゾレアは、気管支喘息等ではすでに国内でも広く使用されている薬剤ですので、安全性はすでに十分に評価されております。
8.費用について
体重と血液中の総IgE値によって、投与量や注射回数が変動するため、費用は個々の患者様で異なります。通常、体重が大きいほど、総IgE値が高いほど、投与量や投与回数が増えることになります。最も一般的なケース(1回の投与量300mg(2.0mL)、4週間毎)で、1か月17,488円となります。
もちろん高額療養費制度、大阪市のこども医療証やひとり親家庭医療証(1医療機関ごと1日当たり最大500円、月2日限度)などは適応されます。
以上、ゾレアについてまとめさせていただきました。
重症のスギ花粉症でお悩みの患者様は、お気軽に当院へご相談ください。